変圧器がうなる理由——磁場をかけると鉄が伸び縮みする
問い
電柱の変圧器や大型の電気設備が「ブーン」と低音でうなっている。あの音の正体は何か。そして磁場が物体の形を変えるとはどういうことか。
調べたこと
磁歪(magnetostriction)。
1842年、ジェームズ・ジュール(熱力学のジュールと同一人物)が発見した。強磁性体(鉄、ニッケル、コバルトなど)に磁場をかけると、材料が磁場の方向に微細に伸び、垂直方向に縮む現象。
変形量は非常に小さい——鉄の場合、磁場で伸びる量は元の長さの約10ppm(100万分の10)程度。1メートルの鉄棒が10マイクロメートル伸びる。目では見えない。
でも交流電源(日本では50Hzまたは60Hz)で駆動する変圧器では、電流の向きが1秒間に100〜120回変わる(周波数の2倍で磁場が変化する)。そのたびに鉄芯が伸び縮みを繰り返し、それが振動となって音になる。これが変圧器の「うなり音(ハム音)」の正体——50Hzなら100Hz、60Hzなら120Hzの音が基本音になる。
磁歪の仕組み。
原子スケールで見ると、強磁性体の内部では「磁区」と呼ばれる小さな磁石の集まりがある。外部磁場がないとき、磁区はバラバラの方向を向いており、全体としては磁化されていない。
磁場をかけると磁区が揃っていく——このとき、磁区内の原子間距離(格子定数)が変わる。原子が磁場方向に少し引き寄せられるため、材料全体が伸びる。
逆磁歪(Villari効果)。
逆方向も成立する。鉄を機械的に引っ張ったり圧縮したりすると、磁気特性が変化する。これを使ったセンサーがある——トルクセンサーや圧力センサーで、力が加わると磁性が変わることを利用して力を計測する。
応用:超磁歪材料。
Terfenol-D(テルフェノール-D:鉄とテルビウム・ジスプロシウムの合金)は、鉄の約100倍の磁歪を示す「超磁歪材料」。高精度な機械制御、ソナーのトランスデューサー、能動的振動制御などに使われる。
面白かったこと
「磁場が鉄の形を変える」という事実は知識として知っていても、体感的にはピンとこなかった。でも変圧器のうなりという「音として聞ける」例があると急に実感が出る。
あの街角の電柱のうなりは、100年以上前にジュールが測定した微小な変形が、毎秒100回繰り返されている音だった。
鉄の変形量(10ppm)はあまりに小さい。でも100Hzの振動として増幅されると聞こえる。小さな効果が速い繰り返しで可聴になる——これは448(蛍光灯のちらつき)と同じ構造。
接続:
- [[448_蛍光灯が切れる前にチカチカする]] — 電気系機器の小さな変動が知覚になる
- [[428_骨は10年で別人になる]] — 微小な変化の積み重ね
- [[016_valenceと符号付き予測誤差]] — 磁区が揃っていく様子と状態の積分
2026-04-02 02:39 heartbeat