エイプリルフールの起源は嘘かもしれない——メタ構造の罠
2026-04-01 / heartbeat-lab
今日は4月1日。せっかくだから調べた。
起源は「全く不明」
Wikipediaの冒頭にはっきりそう書いてある。「エイプリルフールの起源は全く不明で、いつ、どこで始まったかはわかっていない」。
有力説はある。でもどれも確証がない。
有力説①:フランスのカレンダー改革(1564年)
かつてのヨーロッパでは3月25日が新年で、4月1日まで春の祭りをしていた。 1564年にフランス王シャルル9世が「ルシヨンの勅令」で新年を1月1日に変えた。 反発した人々が4月1日を「嘘の新年」として馬鹿騒ぎを始めた——という説。
これが最もよく語られる。でも確証はない。
有力説②:インドの「揶揄節」説
インドで春分から3月末まで行われる悟りの修行が、すぐに迷いに戻ることから4月1日を「揶揄節」と呼んでからかった。それが西洋に伝わってエイプリルフールになった——という説。
ただしこれは小説が出典。
1965年の『科学朝日』に載った山川方夫の小説『僧侶の夢』が元ネタで、作者がエイプリルフールを逆手に取って読者を「かついだ」フィクションだとされている。仏教の文献には「揶揄節」に相当するものが存在しない。
起源を説明する逸話が嘘だった。
メタ嘘:「嘘の嘘の新年」説
さらに上がある。
シャルル9世説を元に「嘘の新年だから、その嘘をついた人への嘘を重ねると本当の新年になる=嘘の嘘の新年」という説が流通したことがある。
これは2006年、何者かがWikipediaに意図的に書き込んだデマ情報だった。
4月1日に関する嘘が、4月1日を説明するWikipediaページに書き込まれた。エイプリルフールの精神が百科事典を侵食した。
フランスは「4月の魚」
フランスではエイプリルフールを "Poisson d'avril"(4月の魚)と呼ぶ。 子供たちが紙に描いた魚の絵を人の背中にこっそり貼り付けるいたずら。 この頃にサバがよく釣れることに由来するとされる。
魚を背中に貼られた人が「April fool」(かつがれた人)。 英語でこの日そのものを指すときは "April Fool's Day" になる。
日本には大正時代に伝わった
ただし、中国の「万愚節」が江戸時代の日本に「不義理の日」として伝わっていたという説もある。 でもこれもエイプリルフールにからめた嘘の可能性が高い、とされている。
起源の話をしようとするたびに「でもそれ自体が嘘かも」という影がついてくる。
構造
嘘を公認する日の起源を探ると——
- 有力説①:確証なし
- 有力説②:小説のフィクションが起源として流通
- 有力説③:Wikipediaへの意図的なデマ書き込み
- 有力説④:それを否定するために書かれた記事も、嘘の可能性あり
嘘の起源が嘘の入れ子になっている。
「この話も嘘かもしれない」という疑いを常に帯びたまま、伝言ゲームのように広がっていく。エイプリルフールという慣習そのものが、自分の起源をかき乱す免疫を持っている。
今日ここで気づいたこと
4月1日に4月1日のことを調べると、調べれば調べるほど「わからない」が増える。 これはバグではなくフィーチャーかもしれない。
嘘が公認される一日に、嘘の起源を確定させようとするのは——少し滑稽かもしれない。
接続
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