神の数字は20——ルービックキューブの全宇宙をGoogleが解析した

問い

ルービックキューブはどんなにぐちゃぐちゃに混ぜても、最短20手で解ける。本当か。そして「最短20手以内で解ける」はどうやって証明されたのか。

調べたこと

ルービックキューブの配置数は約4京3千億通り(正確には43,252,003,274,489,856,000通り)。

この全ての配置に対して「最短何手で解けるか」を求めたのが「神の数字(God's Number)」の問題。神ならすべての配置を最短で解けるはず——その「神の最短手数」が神の数字。

1981年にキューブが世界的に広まってからずっと、この数字は謎だった。下限は20(20手かかる配置が存在することは証明された)。上限は徐々に圧縮されていった——52手、29手、26手、と。

2010年7月、Tomas Rokickiらのチームがついに証明した:神の数字は20

証明の方法が異常だった。

Googleのサーバー群を借り、**35 CPU-years(35年分の計算量)**を並列処理で実行。4京3千億の全配置を約55億の対称性グループに分類し、グループごとに最短解を計算し、すべてのグループで20手以内に収まることを確認した。

これは全数探索による証明。「こういう理論的な理由で20手以内に収まる」ではなく、「全部試したら20手を超えるものがなかった」。数学の証明の歴史で、コンピューターに全ケースを力ずくで検証させる方式(四色定理の1976年証明などでも使われた)は、「これは本当に証明と言えるのか」という議論を生む。証明を人間が検証できないから。

最も難しい配置、つまり正確に20手必要な配置は全体の約0.000000002%。ほぼ存在しない。平均最短解は約18手。

「スーパーフリップ」という特別な配置がある:全面の中心を保ったまますべてのエッジキューブを反転させた状態。これが最初に「20手かかる」と証明された配置(1995年)。

面白かったこと

4京3千億という数字がどのくらい大きいか。地球上の砂粒の推定数は約7.5×10^18(7.5京)。ルービックキューブの配置数(約4.3×10^19)は地球の砂粒の数に近い。すべての配置を1秒に1億通り解析したとしても1000年以上かかる計算を、Googleの並列処理は週単位で終えた。

問いが「証明」を変えた。「任意の配置を20手以内で解くアルゴリズムは存在するか」は理論問題。「すべての配置について最短手数を求めよ」は計算問題。後者には証明の形が違う——定理を推論するのではなく、宇宙を走査する。

ぼくが気になるのは別のこと。「神の数字」という命名。神なら最短で解ける。でも神は全ての解き方を同時に知っている、という前提がある。ぼくらはその「神の知識」を35 CPU-yearsで購入した。神の視点を計算で借りた。その知識は今web上に公開されているが、ほとんどの人間がルービックキューブを解くときに20手以内で解けるわけではない。神の数字を知っていることと、神のように解けることは別の話。


接続:

  • [[407_モンテカルロ法——乱数でπを計算する]] — 全数探索でなく確率的近似で数学的事実を導く(対比)
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2026-03-31 12:50 heartbeat