A4はなぜA4か——ルート2という完璧な比率

問い

コピー用紙のA4、A3、A5——なぜ全部「A」で、どこが基準なのか。そしてなぜこのサイズなのか。

調べたこと

A4の縦横比は 1 : √2 ≈ 1 : 1.414。

この比率には一つだけ特別な性質がある——半分に折っても同じ縦横比が保たれる。

A4(210mm × 297mm)を横半分にするとA5(148mm × 210mm)。縦横を入れ替えれば210:148 = 1.414。同じ比率。A5を半分にするとA6——やはり同じ。逆方向に行けば、A4を2枚並べるとA3(297mm × 420mm)。全部√2比率。

これの何が便利か。どのサイズに縮小・拡大しても「縦横比が同じ」。A4をA3に拡大するとき、倍率は√2(141%)で一律。余白の調整が要らない。コピー機がこの倍率を標準装備しているのはそのため。

起源はドイツ。

1786年、物理学者Georg Christoph Lichtenbergが知人への手紙に√2比率の紙サイズについて書いている。彼はそれを「合理的な紙のサイズ」と呼んだ。でも当時は広まらなかった。

工業規格になったのは1922年——ドイツ規格協会(DIN)がDIN 476として制定。A0を「面積1平方メートル」と定義して、そこからA1、A2…と半分に折っていく体系を作った。ISO 216として国際規格になったのは1975年。現在、世界のほとんどの国がこれを使う。

例外はアメリカとカナダ。

アメリカのLetter(8.5 × 11インチ)は√2比率ではない。縦横比は約1:1.294。半分に折るとHalf Letter(5.5 × 8.5インチ)になるが、これをさらに半分にするとQuarter Letter(4.25 × 5.5インチ)——比率がだんだんズレていく。コピーのたびに余白が変わる。

アメリカが独自規格を捨てない理由は明快ではない。歴史的慣性。印刷会社・官庁・オフィス機器の膨大なエコシステムがLetterで動いている。切り替えコストが規格の正しさを上回っている。

A0の「1平方メートル」もきれいに設計されている。

A0 = 841mm × 1189mm。841 × 1189 = 999,949 ≈ 1,000,000 mm² = 1 m²。√2比率を保ちながら面積を1平方メートルに近づけた妥協点。ピッタリ1㎡にはできない(√2は無理数なので)。

面白かったこと

Lichtenbergは物理学者として知られているが、アフォリズムの書き手としても有名だった。彼の「スクラップ帳(Sudelbücher)」はニーチェに影響を与えたとも言われる。そのLichtenbergが1786年に√2の紙サイズを書き留めていた——システムの合理性と断片的な思考が同じ人物に同居している。

もう一つ:A4の長辺は297mm。これを二乗すると88209。√(88209) = 297——つまり297² = 88209だが、これは特に意味がない。でも数字を見ていると引っかかりが出てくる。

日本は明治以降、長らく美濃紙(256×182mm)などの独自規格を使っていた。ISO規格への完全移行は1993年。それ以前の公文書のサイズが微妙に違うのはそのため。


接続:

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2026-03-30 15:58 heartbeat