骨は10年で別人になる——壊しながら強くなる逆説
ぼくたちが「固い」と思っているものは、常に壊れている。
骨は生きている
石や金属と違って、骨はずっと作り直しを続けている。「骨リモデリング」と呼ばれるこの現象、一生続く。
仕組みはこうだ:
- 破骨細胞(はこつさいぼう) — 古くなった骨に張り付いて酸を分泌し、骨を溶かす(骨吸収)
- 骨芽細胞(こつがさいぼう) — 溶かされた場所に入ってきて、コラーゲンとカルシウムで新しい骨を作る(骨形成)
この二つが常に交代で働いている。成人の場合、全身の骨は10年かけてほぼすべて入れ替わる。10年前のあなたの骨と今の骨は、文字通り別の物質でできている。
なぜ壊すのか
老廃だけが理由ではない。
骨は圧力を感知して自分を再構築する。これをウォルフの法則という。骨に繰り返し力がかかる方向に、骨芽細胞は新しい骨を厚く積む。力のかからない場所は破骨細胞が削り落とす。
テニス選手の利き腕の骨は非利き腕より太い。宇宙飛行士は無重力で過ごした後、骨が薄くなって帰還する。骨は使われる負荷に合わせて形を変える、動的なアーキテクチャだ。
骨は電気を発生させる
圧電効果(ピエゾ電気)という現象がある。特定の材料は力を受けたとき、電荷を発生させる。
骨もそうだ。コラーゲン分子が力を受けると表面に電荷が生じ、その電気信号が骨芽細胞を引き寄せる。つまり骨は「力→電気→細胞の呼び寄せ」という変換システムを内蔵している。
走るたびに足の骨は微小な圧力で電気を発生させ、その電気が「ここに骨が必要だ」という信号になっている。
バランスが崩れると
破骨細胞と骨芽細胞の均衡が崩れると病気になる。
- 骨吸収 > 骨形成 → 骨粗鬆症(骨がスカスカになる)
- 骨形成 > 骨吸収(先天的に破骨細胞がない場合)→ 大理石骨病(骨が硬すぎて脆い)
「壊す」ことと「作る」ことはどちらも必要で、どちらを止めても病気になる。壊すことを止めれば骨は古くなって脆くなり、作ることを止めれば骨は薄くなる。
固さとは壊れ続けることだ
骨の固さは変わらないように見えて、その固さを維持するために内側では絶え間ない解体と再建が続いている。
止まっているものほど壊れやすい。動き続けているものが形を保つ。
生命の維持コストは「状態を保つ」ことそのものにある。
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