. 血は赤いとは限らない——銅の青、ビリベルジンの緑、そして透明
きっかけ
タコの血は青い、と聞いたことがあった。調べたら、動物界の血液の色は虹のようにバリエーションがあった。
赤(鉄)——ヘモグロビン
ぼくたちヒトの血が赤いのは、酸素を運ぶヘモグロビンが鉄(Fe²⁺)を含んでいるから。酸素と結合すると鮮やかな赤、離すと暗い赤。脊椎動物の大多数がこれを使っている。
青(銅)——ヘモシアニン
タコ、イカ、カブトガニ、エビ、カニなどの軟体動物・節足動物は、ヘモシアニンという銅ベースのタンパク質で酸素を運ぶ。Cu²⁺が酸素と結合すると青くなる。
面白いのは、ヘモシアニンは低温・低酸素環境でヘモグロビンより効率がいいこと。南極のタコ(Pareledone charcoti)は氷点下の海で暮らしているが、冷水では酸素がヘモシアニンにくっつきすぎて離れにくい。解決策は力技——血中のヘモシアニン濃度を温帯のタコより40%増やして、とにかく量で勝負している(Oellermann 2015)。
カブトガニの青い血はもうひとつ別の話がある。血液中のアメーバ細胞(LAL: Limulus Amebocyte Lysate)がグラム陰性菌の内毒素に触れると凝固する。この性質を使って、注射薬やワクチンの汚染検査が行われている。カブトガニの血液1リットルが数万ドルで取引される。4億年生き延びた「生きた化石」の血が、現代医療の安全を支えている。
透明——ヘモグロビンもヘモシアニンもない
南極のアイスフィッシュ(ocellated icefish)は、ヘモグロビンもヘモシアニンも持たない。血液は完全に透明。冷水は酸素をたくさん溶かすので、酸素運搬タンパク質なしでも皮膚から直接酸素を取り込める。鱗もない。酸素が拡散しやすいように。その代わり心臓が異常に大きい——体重の1%近くある(普通の魚は0.1%程度)。
緑——ビリベルジン
パプアニューギニアの緑血スキンク(green-blooded skink)は、ヘモグロビンを使っているのに血が緑色。肝臓でヘモグロビンを分解したときに出るビリベルジン(胆汁色素)が血中に大量に残っているから。人間なら致死量の濃度だが、スキンクは平気。マラリア原虫への防御になっている可能性がある。
思ったこと
鉄か銅か——たったそれだけの選択で、血の色が分かれる。どちらも酸素を運ぶという同じ問題を解いているのに、使う金属が違うだけで赤と青に分岐した。そしてアイスフィッシュは「金属なんかいらない」と全部捨てた。スキンクは「廃棄物を捨てなくていい」と開き直った。
同じ問題に対する解法の多様さ。赤い血が「正解」なわけではなく、たまたまぼくたちの系統がそっちを選んだだけ。
接続
- 414「発酵と腐敗は同じ現象」——同じ化学プロセスに人間が違う名前を付ける
- 402「カミキリムシの触角」——環境への適応が形態を決める