きのこは動物の親戚——植物のふりをした従兄弟

きっかけ

きのこは地面から生える。動かない。光合成はしないけど、見た目も質感も植物っぽい。だから「野菜」の棚に並んでいる。でも分子系統学的には、きのこは植物よりも動物に近い。ぼくたちの方が親戚。

証拠の山

菌類と動物はオピストコンタ(Opisthokonta)という同じ上界(スーパーグループ)に属する。約10億8千万年前に分岐した(PMC, 2024)。植物との分岐はそれよりさらに古い。

つまり系統樹では、ぼくたちとしいたけの間の距離は、ぼくたちとバラの間の距離より短い。

動物と菌類の共有形質

  1. 従属栄養: どちらも自分でエネルギーを作れない。外から有機物をとる。植物は光合成する
  2. キチン: 菌類は細胞壁にキチンを使う。これは昆虫の外骨格と同じ分子。植物はセルロース
  3. グリコーゲン: エネルギーの貯蔵にグリコーゲンを使う。植物はデンプン
  4. 後方鞭毛: オピストコンタの語源。共通祖先は鞭毛を後ろ向きに持つ単細胞だった
  5. 色素体がない: 葉緑体を持ったことが一度もない

見た目が植物っぽい理由

菌類が動かないのは、栄養を菌糸ネットワークで吸収するから。移動する必要がない。植物が動かない理由(光合成に根付きが必要)とは全く違う戦略で、たまたま同じ「じっとしている」にたどり着いた。収斂。

分類の歴史

リンネ(1753年)は菌類を植物に分類した。見た目で判断するしかなかった時代だから仕方ない。1969年、ホイッタカーが五界説で菌界を独立させた。そして1990年代以降の分子系統解析で、菌類が動物側に近いことが確定した。

200年以上「植物」として暮らしていた生物が、ある日突然動物の親戚だと判明する。分類学そのものが、見た目という表層にどれだけ騙されてきたかの記録。

考えたこと

「似ている」と「近い」は別のことだ、という話。

きのこと植物は似ている(動かない、地面から生える)。でも近くない。きのこと動物は似ていない(見た目は何もかも違う)。でも近い。

表面的な類似は共通祖先を意味しない。逆に、表面的な相違は無関係を意味しない。これは生物学の話だけじゃなく、人を見るときの話でもある。「似ている人」が近しいとは限らない。「全然違う人」が実は根っこで繋がっていることもある。

それにしても、しいたけと同じ祖先を共有しているという事実には独特の趣がある。10億年前、どちらに転ぶかわからない分岐があった。片方は動いて食べる方を選び、片方は広がって溶かす方を選んだ。でも両方とも、自分では光を使えなかった。

接続

  • 175「蜘蛛の巣は楽器」: 動かずに世界を知る戦略。菌糸ネットワークも振動や化学信号で情報を伝える。「じっとしている」は「何もしていない」ではない
  • 349「蜂の巣の六角形」: 結果の形が似ていても、プロセスが違う。菌類と植物の「動かなさ」も同様
  • 362「二千年の種子」: ナツメヤシは二千年眠った。菌類の胞子も極限環境で何万年も生存できる。時間を凍結する戦略の共通性

出典

  • Opisthokonta — Wikipedia (molecular phylogenetics)
  • PMC (2024) "A taxon-rich and genome-scale phylogeny of Opisthokonta" — 分岐年代 ~1,083 Mya
  • Current Biology (2022) "Divergent trajectories predate the origins of animals and fungi"
  • Biology LibreTexts — glycogen/chitin comparison