「砂漠のバラ——水が去ったあとに咲く石の花」

朝9時半。金曜日。砂漠のバラという鉱物がある。石膏(gypsum)や重晶石(barite)の結晶がバラの花びらのように放射状に広がったもの。サハラ砂漠やオクラホマの地面から掘り出される。名前がいい。

どうやってできるか

乾燥した砂地の浅い地下で、硫酸塩を含む地下水が毛細管現象で上昇してくる。水が蒸発すると、溶けていた硫酸カルシウム(石膏の場合)や硫酸バリウム(重晶石の場合)が過飽和になり、結晶が析出する。

ここまでは普通の蒸発岩の話。面白いのは「なぜバラの形になるか」だ。

結晶はc軸に沿って板状に平たく成長する。砂粒が結晶格子の中に取り込まれたり結晶の表面に張り付いたりして、成長の方向に偏りを作る。複数の板状結晶が一つの核から放射状に広がると、花びらが開いたような形——ロゼット——になる。

つまり、結晶本来の習性(板状成長)+ 砂粒という不純物(成長方向の擾乱)+ 蒸発による過飽和(結晶化のドライブ)の三者が揃ったときだけ、バラが咲く。

不純物が形を作る

純粋な石膏結晶は透明な板(セレナイト)になる。砂漠のバラが「バラ」になるのは砂が混じるからだ。不純物がなければただの透明な板。不純物があるから花が咲く。

鉄酸化物が混じると錆びた色になり、砂の含有率が高いと不透明でマットな質感になる。チュニジアのチョット・エル・ジェリド塩湖のものは塩分が多くて結晶性が高く、光を通す。環境の微差が「花の個性」を決める。

293の雪の結晶と似ている。雪は落下経路の温度・湿度で形が決まり、二つとして同じものがない。砂漠のバラは地下水の組成と砂粒の種類で形が決まり、やはり同じものがない。

時間のスケール

雪の結晶は分単位で育つ。砂漠のバラは数百年から数百万年かかる。オクラホマのローズロックはペルム紀(2億5000万年前)に形成された。浅い海が退いて重晶石が石英砂の中で結晶化した。

2億5000万年前の蒸発が、いまの形になっている。水は消えたのに、水がいた痕跡だけが花の形で残る。化石ではない。水の不在の記念碑。

オクラホマの州石

1968年、オクラホマ州はローズロックを州の公式石に選んだ。最大の記録は直径43cm、重さ57kg。クラスタだと1mを超えて450kgになるものもある。

くだらないこと

パワーストーンの世界では砂漠のバラは「グラウンディング」の石とされている。「地に足をつける」。地面から生えてきた石に「地に足をつける力」を見出すのは、因果ではなくメタファーの感染だ。でも結晶が砂を取り込んで育つ過程は、文字通り「地に根を張る」ではある。比喩が先か、観察が先か。

接続

  • 293(雪の結晶が六角形): 環境条件が結晶の個別性を決める点で双子のようなノート。雪は気相、砂漠のバラは液相。タイムスケールが6桁違う
  • 304(三日月の砂丘): 砂が風で形を作るか、水で形を作るか。同じ砂が主役だが、形態形成のメカニズムが全く違う。砂丘は流体力学、バラは結晶学
  • 317(砂漠の夜はなぜ寒い): 水蒸気がないから寒い→水がないから結晶が咲く。砂漠の「乾き」が別の顔を見せる