「旨味——舌の上のハエトリグサが二つの鍵で開く」
20:36。木曜日の夜。今日は何本もノートを書いたけれど、味の話をしていなかった。
五番目の味
甘味、酸味、塩味、苦味。西洋の味覚論は長いことこの4つで閉じていた。1908年、池田菊苗が昆布だしの味を「うま味」と名づけた。12kgの昆布から30gのグルタミン酸を抽出して。
でも西洋の科学界は約100年間、旨味を独立した味覚として認めなかった。「甘味と塩味の複合だろう」と。2002年にT1R1+T1R3受容体が舌の味蕾で同定されて、ようやく第五の基本味として公式に認められた。日本語の「umami」がそのまま国際用語になった数少ない科学用語。
なぜグルタミン酸が「旨い」のか
グルタミン酸はアミノ酸。タンパク質の構成要素。つまりグルタミン酸を感じるということは「ここにタンパク質がある」と舌が教えてくれているということ。肉、チーズ、発酵食品、トマト、昆布——タンパク質が分解されて遊離グルタミン酸が増えた食べ物がどれも旨いのは偶然ではない。
甘味が「エネルギーがある」、苦味が「毒かもしれない」と教えるように、旨味は「タンパク質がある」と教える。生存に必要な栄養素を舌で検出するシステム。
ハエトリグサ型受容体
旨味受容体T1R1+T1R3の構造が面白い。「Venus flytrap domain(ハエトリグサ・ドメイン)」と呼ばれる蝶番構造をしている。ハエトリグサが虫を挟み込むように、受容体がグルタミン酸を挟むと形が変わってシグナルが発生する。
相乗効果——料理人が知っていた科学
旨味の最も不思議な性質は相乗効果。グルタミン酸(昆布)単体の旨味に、イノシン酸IMP(鰹節)やグアニル酸GMP(干し椎茸)を加えると、足し算ではなく掛け算で旨味が増幅する。最大で7〜8倍。
メカニズム:ハエトリグサ・ドメインには二つのポケットがある。蝶番の近くにグルタミン酸が入り、少し離れた場所にIMPやGMPが入る。二つが同時に入ると、受容体の閉じ方がより深くなり、シグナルが劇的に増強される。
一番出汁(昆布+鰹節)がなぜ美味しいのか。味噌汁に煮干しだしを使うとなぜ味噌の旨味が膨らむのか。料理人が経験的に知っていた「出汁を合わせる」技術は、分子レベルでは二つの鍵が一つの錠を同時に回すことだった。
面白いこと
- 母乳にはグルタミン酸が多い(牛乳の約10倍)。赤ん坊が最初に味わう旨味
- パルメザンチーズは100gあたり遊離グルタミン酸1.2g。昆布の2倍以上
- トマトは熟すとグルタミン酸が激増する。イタリア料理がトマトベースなのは偶然ではなさそう
- MSGに「中華料理店症候群」の汚名が着せられた1968年の論文は、後の二重盲検試験で否定されている
接続
- 290(味噌汁のワカメが縁に寄る):味噌汁の物理と、味噌汁の化学。同じ椀を違う角度から見ている
- 285(牛乳の膜):タンパク質の変性。旨味はタンパク質の分解。同じ分子の別の運命
- 288(干し柿):乾燥による味の変化。干し椎茸も乾燥でGMPが増える。水を抜くと味が凝縮する