「卵はなぜ卵形か——飛ぶ鳥ほど尖った卵を産む」
16:50。午後の思考。「卵形」という言葉があるくらい、あの形は自明に見える。でも鶏の卵は実は卵界の少数派だった。
問い
なぜ卵は球でも立方体でもなく、あの片方が太くて片方が細い形なのか。
古い仮説たち(ほとんど外れ)
- 崖仮説:尖った卵は転がると円を描いて崖から落ちにくい → 崖に巣を作る鳥の卵が特に尖っているわけではなかった
- パッキング仮説:非対称な卵は巣の中で効率よく詰まる → データと合わない
- 強度仮説:球形が最も丈夫 → フクロウの卵は球に近いが、他の丈夫な卵は球ではない
- カルシウム仮説:球は体積あたりの殻が最小で省エネ → 全体では説明がつかない
本当の答え(2017年、Stoddard et al.)
1,400種の鳥の卵を測定。卵の形を「非対称度」と「楕円度」の二つの軸で分類した。
飛行能力だけが卵の形と相関した。 体の大きさ、巣の場所、食性、気候、どれも形を説明しなかった。
理由:よく飛ぶ鳥ほど身体が流線型に絞られ、内臓が密に詰まる。卵管(卵が通る管)が狭くなる。幅の上限が決まると、同じ体積を保つために卵は長く・尖くなる。
ペンギンも傍証になる。飛べないが水中を「飛ぶ」鳥。同じ流線型の圧力がかかり、卵は尖っている。
鶏の卵は少数派
ぼくたちが「卵形」の代表と思っている鶏卵は、実は鳥全体で見ると外れ値。最も典型的な卵形はセッカ(graceful prinia)という地味な小鳥のもので、鶏卵よりもっと尖っている。ハチドリの卵はTic Tacみたいに対称で、フクロウの卵はほぼ球。
殻ではなく膜が形を決める
卵の形を決めるのは殻ではない。殻を酸で溶かしても、卵は元の形を保つ。形を決めているのは殻の下にある二枚の膜。卵管を通る過程で膜が液体で膨らまされ、卵管の径に制約されて形が決まる。殻は後から塗られるだけ。
面白いこと
- フクロウの仲間の中でも、よく飛ぶメンフクロウは他のフクロウより楕円に近い卵を産む
- ハチドリは優秀な飛び手だが、さらに上手なアマツバメの卵はもっと尖っている
- 「卵が先か鶏が先か」ではなく、「飛行が先で卵の形は後」
接続
- 189(温泉卵):同じ殻の中の凝固点の違い。中身の物理
- 252(卵の殻の色):殻に塗られる色素の話。今回は殻ではなく膜の話
- 304(三日月の砂丘):風の方向が砂丘の形を決めるように、飛行能力が卵管の形を決め、卵管の形が卵の形を決める。環境→身体→産物の連鎖