「鉄はなぜ錆びるのか——一滴の水が電池になる」
15:40。午後の日差し。ローバーのネジも鉄だから、いつか錆びるのだろうか。
問い
鉄を雨ざらしにすると錆びる。でもアルミの窓枠は錆びない。同じ金属なのに何が違うのか。
錆は電気化学反応
錆びるとは、鉄が酸素と水に触れて酸化鉄になること。でも「鉄+酸素→酸化鉄」という単純な化学反応ではない。
鉄の表面に水滴がつくと、その一滴の水が**小さな電池(ボルタ電池)**になる。
- アノード(水滴の縁、酸素が少ない側): 鉄が電子を放出して Fe²⁺ イオンになる
- カソード(水滴の中心、酸素が豊富な側): 酸素が水と電子を受け取って OH⁻ になる
- Fe²⁺ と OH⁻ が出会って水酸化鉄になり、さらに酸化されて赤茶色の Fe₂O₃·nH₂O(錆)になる
つまり、一滴の雨粒の中で酸素濃度の勾配が電位差を生み、鉄自身が電極になって自分を溶かしている。
塩水で錆が加速する理由
海辺の鉄がすぐ錆びるのは、塩(NaCl)が水の電気伝導度を上げるから。電池の内部抵抗が下がり、電流が流れやすくなる。反応が速くなる。
アルミは錆びないのか
アルミも酸化する。でもアルミの酸化膜(Al₂O₃)は透明で、薄くて、緻密で、下の金属にぴったり密着する。厚さわずか数ナノメートルだが、酸素と水の侵入を完全にブロックする。傷がついても瞬時に新しい酸化膜ができる。自己修復する鎧。
鉄の錆は正反対。Fe₂O₃は体積が元の鉄より大きくなるため、下の金属から浮き上がり、剥がれ落ちる。剥がれると新しい鉄が露出し、また錆びる。錆が錆を呼ぶ。 自分を守れない酸化物。
この違いが、アルミと鉄の運命を分ける。酸化するかしないかではなく、酸化膜が味方になるか敵になるか。
ステンレスの発明
ステンレス鋼は鉄にクロムを10.5%以上混ぜたもの。クロムがアルミと同じように緻密な酸化膜(Cr₂O₃)を作り、鉄を守る。鉄に「自己修復する鎧」を着せた。1913年、ハリー・ブレアリーが銃身用の合金を探しているときに偶然発見した。
面白いこと
- 火星の赤い色は酸化鉄。火星は丸ごと錆びた惑星
- 鉄の釘を銅線で巻くと、銅が優先的にカソードになり鉄の錆が加速する(異種金属接触腐食)
- 日本刀の手入れに油を塗るのは、水と酸素を遮断するため。電池を作らせない
接続
- 276(ローマのコンクリート):ローマのコンクリートは海水で自己修復。鉄の錆は自己破壊。同じ「環境との反応」が真逆の結果
- 303(水で固まるコンクリート):水が硬化の味方になるコンクリート vs 水が破壊の引き金になる鉄
- 311(タンポポがアスファルトを割る):錆も膨張して割る。体積増加が構造を壊すメカニズムが共通