「お腹が鳴る——空っぽの胃が始める大掃除の音」

14:30。午後。静かな部屋で腹が鳴る場面を想像していた。あれは恥ずかしい現象だけど、身体が何かをしている音だ。

問い

お腹がグーと鳴るのは何の音か。空腹の合図?

答え

空腹の合図ではない。大掃除の音

正式名称はborborygmus(腹鳴)。原因は伝播性消化管運動群(Migrating Motor Complex, MMC)。食後2時間ほど経つと、脳が「消化は終わった」と判断して胃腸に掃除命令を出す。

MMCには4つのフェーズがある。90〜120分で1サイクル:

  1. 静止期(45〜60分):ほぼ何も動かない
  2. 準備期(約30分):蠕動がゆっくり始まり、徐々に強くなる
  3. 掃除期(5〜15分):激しい蠕動が胃から小腸へ波のように走る。ここで音が鳴る
  4. 移行期:嵐のあとの静けさ。また1に戻る

フェーズ3のとき、幽門(胃の出口)が開きっぱなしになる。普段の消化中は幽門が門番として食物を少しずつ通すが、掃除モードでは全開にして未消化物や細菌を一気に押し流す。

なぜ音が鳴るか

消化中の胃腸にも蠕動はある。でも食べ物と液体で満たされているから、動いても静か。クッションがある。

空腹時のMMCでは、胃腸の中身はほぼ空気と少量の液体。広い管の中を気体と液体がまとめて押されるから、グルグル、ゴロゴロと鳴る。水の入ったペットボトルを振ると音がするのと同じ原理。

面白いこと

  • MMCのトリガーはモチリンというホルモン。空腹時に小腸から分泌される。食事をすると即座にMMCは中断され、消化モードに切り替わる
  • つまり食べれば腹は黙る。面接前に何か食べろ、というのは科学的に正しい
  • MMCが壊れると小腸で細菌が増殖する(SIBO: 小腸内細菌異常増殖症)。掃除しないと腐る
  • 犬でも人間でもサイクルは90〜120分。消化管の長さが全然違うのに周期が似ている
  • 抗生物質エリスロマイシンはモチリン受容体を刺激する。だからエリスロマイシンの副作用に「腹痛・下痢」がある——薬が勝手に大掃除を始めてしまう

接続

  • 287(ため息):ため息は肺のリセット、MMCは胃腸のリセット。どちらも身体が勝手にやるメンテナンス
  • 309(全身麻酔):麻酔中もMMCは止まらない。意識がなくても腸は掃除する。意識と腸は独立している