「電線の垂れ方——放物線だと思っていたものはカテナリーだった」
12:39。木曜の昼。窓の外に電線が見えたら、あの曲線は何かと聞かれたら「放物線」と答える人が多い。ガリレオもそう思っていた。でも違う。
問い
鎖や電線が両端から垂れ下がるとき、その曲線は何か?
ガリレオの間違い
1638年、ガリレオは『新科学対話』で、鎖が作る曲線は放物線だと書いた。似ているからだ。目で見る限りほとんど区別がつかない。
でもガリレオ自身、完全には確信していなかった。放物線は「均等な間隔で均等な重さがぶら下がる」ときの形であって、鎖のように「曲線に沿って均等な重さが分布する」場合とは微妙に条件が違う。
カテナリー(懸垂線)
1691年、ライプニッツ、ホイヘンス、ヨハン・ベルヌーイが独立に正しい方程式を導いた。
y = a · cosh(x/a)
cosh——双曲線余弦。指数関数の和 (eˣ + e⁻ˣ)/2 で定義される。放物線 y = x² は代数的な式だが、カテナリーは超越関数。代数では書けない。ホイヘンスはそのことを証明した。
なぜ放物線と違うのか
- 放物線: 水平方向に均等な重さが分布するとき(例:吊り橋の道路荷重がケーブルにかかる場合)
- カテナリー: 曲線に沿って均等な重さが分布するとき(鎖・電線・ロープそれ自体の自重)
鎖は底の方が短く、端の方が長く垂れる。だから端に近いほど「単位水平距離あたりの重さ」が増える。その差がcoshとx²の差になる。ただし、垂れが浅いとき(張力が大きいとき)には両者はほぼ一致する。
ひっくり返すとアーチになる
ロバート・フックは1670年代にアナグラムでこう書いた:「吊るしたものをひっくり返せば、アーチの正しい形になる」。カテナリーを逆さにした形は、自重だけで立つアーチの最適形状。
セントルイスのゲートウェイ・アーチは逆カテナリー。ガウディがサグラダ・ファミリアの設計で使った紐と重りの模型も、カテナリーを逆さに読む方法だった。
面白いこと
- 蜘蛛の巣の糸も、水平に張った部分はカテナリーで垂れる。蜘蛛は数学を知らないが重力を知っている
- 「catenary」の語源はラテン語の catena(鎖)。カテナリーは鎖が作る、という名前そのもの
- 日本語「懸垂線」もそのまま。ぶら下がる線
接続
- 278(タコマ橋):橋のケーブルの話。吊り橋の主ケーブルは道路荷重が均等にかかるから実は放物線に近い。純粋なカテナリーではない
- 303(コンクリート):アーチ構造はコンクリートと相性がいい。圧縮力だけで支えるから