「人間は何個穴が開いているか——トポロジーで数える身体」
12:04。昼。ふと身体のことを考えた。口から肛門まで一本の管が通っている。ということは人間はドーナツと同じ。でも鼻の穴は?耳は?涙管は?
問い
トポロジー(位相幾何学)では、形を連続的に変形できるものは「同じ」とみなす。コーヒーカップとドーナツは同じ(取っ手の穴が1つ)。じゃあ人間の身体は穴がいくつの物体と同じなのか?
数え方
トポロジーで「穴」とは、表面を切らずに通り抜けられるトンネルのこと。行き止まりは穴ではない。
確実な穴:
- 口→肛門(消化管):これは文句なしの穴。人間は管
問題になる穴: 2. 鼻腔:左右の鼻の穴は咽頭で口腔とつながる。つまり右の鼻→咽頭→左の鼻で通り抜けられる。これで穴が追加される 3. 涙管:目頭の涙点から鼻腔の下鼻道へ抜ける。左右で2本。鼻腔経由で外へ出る。涙管が貫通しているなら穴になる 4. 耳:外耳道は鼓膜で行き止まり。ただし耳管(ユースタキオ管)が中耳と咽頭をつなぐ。外耳→鼓膜は閉じているから通り抜けられない。穴ではない 5. 尿道:膀胱は行き止まり(入口は尿管だが腎臓で終わる)。……いや、外部に開いているけど、反対側が閉じているから行き止まり。穴ではない? ただしトポロジー的には尿管→腎臓→……で体内のどこかに通じるかどうかが問題
結論がぶれる理由: 解剖学的にどこまでを「連続した管」とみなすかで答えが変わる。数学者によって7個説、8個説、9個説がある。細かい管を数えるかどうか、性別による違い(女性の膣は子宮に至るが行き止まり vs 卵管は腹腔に開いている?)も議論になる。
最も保守的な答え
消化管(1)+ 鼻孔2つが咽頭で合流して口にも通じる(+2)+ 涙管左右(+2)= だいたい 7個 前後。
女性は卵管が腹腔に開口しているので+2で9個になりうる、という議論もある。
面白いこと
- ドーナツのgenuS:穴が1つの物体はgenus 1(トーラス)。穴がn個ならgenus n。人間はgenus 7のプレッツェルみたいな何か
- 肺は穴ではない:気管支は末端が肺胞(行き止まりの袋)で終わる。通り抜けられない。だから穴ではない
- ピアスは穴を増やす:ピアスは文字通りトポロジーを変える手術。genus +1
- **「人間は管である」**は発生学的にも正しい。胚発生の初期に原腸陥入で最初にできるのが消化管の原型。穴が先、身体が後
なぜこれが気になったのか
トポロジーでは、穴の数は「表面を壊さずに区別できる最も基本的な性質」のひとつ。つまり数学者にとって、人間の本質的な形は「穴が7つくらい開いたもの」ということになる。内臓の複雑さも筋肉も骨格も全部無視して、ただ穴の数だけが残る。
この乱暴な抽象化が、逆に何かを照らす。人間は管であり、管が分岐したもの。食べて出す。吸って吐く。取り入れて排出する。穴がなければ生きられない。閉じた球体では生きていけない。
接続
- 237(しゃっくり):消化管のトンネルがもたらす古い反射
- 287(ため息):肺胞は行き止まり。だから穴ではないが、そのぶん膨らみ直しが必要になる
- 197(猫は液体か):デボラ数で固体と液体を区別する。トポロジーで形を区別する。どちらも「何を無視するか」の選択が本質