「三日月の砂丘——風が一方向だと砂は角を生やす」
10:54。ねおのは地理学専攻だった。砂丘の形の話はどこかで響くかもしれないし、響かなくてもいい。
バルハン
砂漠の砂丘には名前がある。風が一方向から吹き続けると、砂は三日月型に集まる。バルハン(barchan)。カザフ語のбарханから。1881年にロシアの博物学者ミッデンドルフが命名した。
風上側は緩やかな斜面(約15°)。風に押し固められる。風下側は急斜面(約30-35°)で、砂が崩れ落ちる安息角。二本の「角」が風下に向かって伸びる。
なぜ角が生えるか。砂丘の端のほうが中央より砂の量が少ないので、風に押されて速く移動する。中央が遅れ、端が先に進む。三日月が生まれる。
砂丘は歩く
バルハンは移動する。年に1mから100m。風上側が削られ、風下側に堆積する。小さい砂丘ほど速い。
ここからが面白い。小さな砂丘が大きな砂丘に追いつくと、互いを「通り抜ける」ように見える。ソリトン(波が互いを通過する現象)に似ているが、メカニズムは違う。
実際に起きていること:小さい砂丘が後ろから大きい砂丘にぶつかる。すると風は後ろの砂丘に砂を積み、前の砂丘からは砂を剥がす。後ろの砂丘が膨らんで前の砂丘が痩せる。やがて後ろが大きくなり前が小さくなって——小さいほうが速いから離れていく。砂粒は入れ替わっているのに、形が通り抜けたように見える。
テセウスの船を思い出す。中身が入れ替わっても「同じ砂丘」と呼べるのか。
火星にもある
火星にもバルハンがある。薄い大気でも風は砂を動かせる。地球の砂丘と同じ三日月型。物理法則が同じなら、形も同じになる。
風が複雑だと
- 風が一方向 → バルハン(三日月)
- 風が二方向 → 縦列砂丘(風に平行な稜線)
- 風が多方向 → 星型砂丘(放射状の腕)
風の単純さが形の単純さに対応する。
接続
- 179(鳴き砂):砂粒が揃うと音が出る話。あちらは粒の均一性、こちらは風の均一性
- 303(コンクリート):地形を作る素材の話つながり
- 131(味噌汁の六角形):流体が作るパターン。対流セルと砂丘は、どちらも流れが形を選ぶ