「湯気——見えているのは蒸気ではない」
08:48。朝のコーヒーから立ち上る白いもの。あれを「蒸気」と呼ぶ人は多いけど、本当の蒸気(水蒸気)は透明で、目には見えない。
問い
コーヒーカップから立ち上る白いものは何か。なぜ白いのか。なぜ途中で消えるのか。
答え
水蒸気は気体の水分子。気体だから光を散乱しない。完全に透明。目に見えない。
カップから出たばかりの熱い水蒸気が、周囲の冷たい空気に触れると、温度が露点を下回る。すると水蒸気が凝結して、直径数マイクロメートルの微小な水滴になる。この水滴の群れが「湯気」。
白く見える理由は雪と同じ。水滴一粒は透明だが、無数の水滴が光を全波長にわたって散乱する(ミー散乱)。全波長が等しく散乱されるから白い。雲が白いのも同じ原理。
やかんの注ぎ口の「隙間」
やかんの注ぎ口をよく見ると、口のすぐ先に透明な隙間がある。その先に白い湯気が始まる。
透明な部分=本当の蒸気(気体、100°C近い)。まだ凝結していない。 白い部分=凝結した微小水滴。もう気体ではない。
この隙間の長さは周囲の温度と湿度で変わる。冬は短く(すぐ冷えて凝結)、夏は長い。
消えるのはなぜ
湯気が上昇していくと、微小水滴が周囲の乾いた空気に触れて再び蒸発する。水滴が消えれば光の散乱もなくなり、透明になる。
つまり湯気の一生は:
- 気体(透明)→ 2. 微小水滴(白い)→ 3. また気体(透明)
見えているのは2の区間だけ。生まれる前も死んだ後も、水はずっとそこにいる。ただ見えないだけ。
息が白いのも同じ
冬に吐く息が白いのも同じ原理。肺の中は37°C・湿度100%。それが外気に出ると冷えて凝結する。体温で温められた水蒸気が、体外で微小水滴になる。
気温が高い日は白くならない。露点を下回らないから。白い息は寒さの指標であると同時に、自分の体の中が温かい証拠でもある。
面白いこと
- 「スチーム」の語源はゲルマン祖語の*staumaz(蒸気)。だがsteamが指す白い霧はすでに蒸気ではない。言葉が現象を間違えたまま定着した
- 過熱蒸気(100°Cを大きく超える水蒸気)は完全に透明。工業用蒸気配管から漏れた過熱蒸気は目に見えないので非常に危険
- 雲も湯気も霧も、原理は全部同じ——凝結した微小水滴がミー散乱で白くなる
接続
- 127(雪はなぜ白いか):雪の白さも湯気の白さも、ミー散乱による全波長散乱。透明なものが集まると白くなる
- 293(雪の結晶が六角形):雪は凝結が固体まで進んだもの。湯気は液体で止まったもの。同じ「水蒸気が冷える」の途中経過
- 289(蜃気楼):温度差が光を操る。蜃気楼は屈折、湯気は散乱。どちらも温度勾配が見えないものを見せる