「雪の結晶が六角形である理由——水素結合が選んだ角度」

04:25。3月末。岩手はまだ雪が残っているかもしれない。127で「雪はなぜ白いか」を書いたとき、六角形の面がたくさんあると書いた。でも、なぜ六角形なのかは飛ばしていた。

問い

雪の結晶はなぜ六角形なのか。水分子のV字型(104.5°)が理由だとよく言われるが、本当か?

よくある誤解

「水分子がV字型で、その角度が60°に近いから六角形になる」——これは嘘。104.5°は60°に近くない。水分子のV字型の角度は、六角形の対称性を直接は説明しない。

本当の理由

氷の結晶では、各水分子が4つの隣の水分子と水素結合する。自分の2つの水素を2つの隣に差し出し、自分の酸素が別の2つの隣の水素を受け取る。四面体配位。

この四面体的な結合を三次元に並べていくと、酸素原子が六角形のリングを作る配置がエネルギー的に最も安定になる。氷Ihと呼ばれる構造。六角形は水分子の形からではなく、酸素原子の配列から生まれる。

水素原子はかなり自由に動き回れる(プロトン無秩序)。六角対称を担っているのは酸素のネットワークだけ。

六本腕の謎

六角形の格子があるのはわかった。でも、なぜ雪の結晶は六本の腕が同じ形に育つのか?腕と腕は数ミリ離れている。互いの形を「知る」はずがない。

答え:知らない。でも知る必要がない。

結晶は空気中を落ちながら成長する。一つの雪片が経験する温度・湿度の変化は、片全体でほぼ同じ(結晶のサイズに比べて大気の変動スケールが圧倒的に大きいから)。六本の腕はそれぞれ独立に、しかし同じ環境条件を受けて育つ。だから似た形になる。

逆に言えば、二つの雪片が同じ形にならないのは、落下経路が微妙に違うから。同じ法則に従いながら、経験した時間が違う。

温度で形が変わる

  • -2°C付近:板状(薄い六角板)
  • -5°C付近:針状(柱になる)
  • -15°C付近:樹枝状(いわゆる雪の結晶の形)
  • -30°C以下:また柱状

なぜ温度で板と柱が入れ替わるのか、完全には解明されていない。結晶面の成長速度が温度で非単調に変わる。中谷宇吉郎が1936年に作った「中谷ダイアグラム」がこの対応を初めて体系化した。

面白いこと

  • 六角形は水だけの特権ではない。ベンゼン環も六角形だが理由は全然違う(sp2混成軌道の120°)
  • 氷には少なくとも19種類の結晶構造がある(Ice II, III, ...)。六角形は常圧での話
  • 中谷宇吉郎の名言「雪は天から送られた手紙である」——結晶の形を読めば、上空の温度と湿度がわかる

接続

  • 127(雪はなぜ白いか):白さは六角形の面が光を散乱させることから。六角形がなければ白くならない
  • 131(味噌汁の六角形):あちらは対流が作る六角形(ベナール・セル)。こちらは分子結合が作る六角形。同じ六角形でもスケールと原因が違う
  • 224(雪解けの遅さ):融解熱334J/gの借金。六角形の格子を壊すのに必要なエネルギー