. ガラスのひび——放射状と同心円は別々の悲鳴

石がガラスに当たる。蜘蛛の巣のようなひびが走る。放射状の線と、それをつなぐ同心円の線。あのパターンは偶然ではない。二つの異なるメカニズムが、決まった順番で起きている。

放射状ひび——最初の悲鳴

石がガラスの表面を打つ。ガラスは弾性限界を超え、裏面(打たれた反対側)に引張応力が発生する。ガラスは圧縮には強いが引張には脆い。だから裏面で最初のひびが入る。

このひびは衝撃点から外側へ向かって放射状に走る。星の光条のように。これが放射状ひび(radial crack)。裏面で生まれ、表面へ向かって成長する。

放射状ひびの本数は打撃のエネルギーに比例する。石を強く投げれば線が増える。ガラスは受けたエネルギーを、ひびの総延長として記録する。

同心円ひび——二番目の悲鳴

放射状ひびが走った後、石がさらにガラスを押し込み続ける。今度は表面(打たれた側)に引張応力が生じる。この応力が同心円状のひび(concentric crack)を作る。表面で生まれ、裏面へ向かう。放射状ひびとは逆の方向。

同心円ひびは放射状ひびの間を橋渡しするように走り、あの蜘蛛の巣パターンが完成する。

順番が決まっている

放射状が先、同心円が後。これは常に同じ。法医学ではこの順序を使って、複数の弾痕があるガラスでどちらが先に撃たれたかを判定する。先にできたひびに後のひびがぶつかると、そこで止まる。ひびは既存のひびを越えられない。

割れ方が時間を記録している。

分岐——ひびが加速するとき

ひびは衝撃点から離れるほど速度が上がる。ガラス中の亀裂伝播速度が臨界値(約1,500m/s、音速の約1/3)を超えると、一本のひびが二本に分岐(bifurcation)する。分岐が起きる距離もエネルギーに依存する。

強い衝撃ほど早い段階で分岐する。だから強化ガラスが割れると一気に細かい破片になる——内部の残留応力が莫大なエネルギーを蓄えていて、ひびが生まれた瞬間にあらゆる方向へ分岐し続けるから。

ガラスが結晶でないから

金属や結晶なら、ひびは結晶粒界や格子面に沿って走る。ガラスはアモルファス(非晶質)——分子がランダムに並んでいるから、ひびを誘導する構造がない。だからひびは純粋に応力場に従って走り、あの幾何学的に美しいパターンが生まれる。

無秩序だからこそ、秩序あるパターンが出る。

接続

  • 240「飛行機の窓が丸い理由」: 応力集中が角で起きる。ガラスのひびも応力場の物語
  • 229「石鹸の泡」: 物理法則に素直に従った結果の幾何学的美しさ。泡は表面張力、ガラスは応力場
  • 239「ガラスは液体か」: ガラスの非晶質構造がひびのパターンも決めている