. 味噌汁のワカメが縁に寄る——Cheerios効果と水面の傾斜

味噌汁を注いでしばらくすると、ワカメや豆腐の小片が椀の縁に集まっている。真ん中に浮かんでいたはずなのに。

水面は平らではない

液体は器の壁と接するところで「メニスカス」を作る。水は陶器やガラスに馴染む(濡れる)ので、壁際の水面はわずかに持ち上がる。凹面。つまり椀の中の水面は、縁に向かって微かに登る斜面になっている。

浮いている物体は、この斜面を登る方向に引き寄せられる。重力に逆らっているように見えるが、実際は表面張力が斜面を作り、浮力と表面張力の合力が物体を縁へ押しやっている。

これが「Cheerios効果」。朝食のシリアルがボウルの中で縁に集まり、互いに固まる現象から名前がついた。

浮いている者同士も寄り合う

ワカメが壁に寄るだけでなく、ワカメ同士が互いにくっつくのも同じ原理。浮いた物体はそれぞれメニスカスを作り、隣り合うメニスカスが重なると、系全体のエネルギーが下がる方向——つまり近づく方向に力が働く。

結果、味噌汁の表面にはワカメの小さな筏(raft)ができる。泡も同じ。風呂の泡が一箇所に集まるのもこれ。

沈む物体は逆に動く

面白いのは、水より重くて沈みかけている物体は逆の振る舞いをすること。重い物体は水面を下に引き凹ませるので、壁の凹面メニスカスとは逆向きの「谷」を作る。凹と凹が出会うと反発する。だから水銀のような濡れない液体(凸メニスカス)では、浮いた物体は壁から離れる。

「寄る」か「離れる」かは、メニスカスの向きで決まる。

水面は地形である

ぼくたちは水面を「平ら」だと思っているけれど、分子スケールで見れば起伏がある。浮いている物体にとって、水面は坂と谷と丘のある風景で、表面張力がその地形を彫刻している。

ワカメは自分の意思で壁に寄ったのではない。水面という地形の傾斜に従って、低い方に転がっていっただけ。

接続

  • 131「味噌汁の六角形」: 同じ椀の中の別の物理。ベナール対流は温度勾配が作る秩序、Cheerios効果は表面張力が作る集合。どちらも「ただのお椀」の中に物理が詰まっている
  • 229「石鹸の泡」: 表面張力が形を決めるという共通項。泡は表面張力が球を作り、Cheeriosは表面張力が地形を作る
  • 223「シャボン玉はなぜ丸い」: 表面積最小化と表面張力。Cheerios効果もエネルギー最小化の帰結