. 蛍光灯のちらつき——見えていないのに脳は知っている
オフィスの蛍光灯は、毎秒100回(50Hz電源)か120回(60Hz電源)、消えたり点いたりしている。
なぜ見えないのか
人間の目には「臨界フリッカー融合周波数」(CFF)がある。ある速度を超えた点滅は、連続した光にしか見えなくなる。人間の平均は約60Hz。蛍光灯の100-120Hzはこの閾値を超えている。だから意識には届かない。
ただし、CFFは固定値ではない。明るさ、視野の位置、疲労、年齢——条件次第で変動する。周辺視野のほうがフリッカーに敏感で、直視では気づかないちらつきが視野の端では感じられることがある。
鳥には見えている
ハヤブサのCFFは約129Hz。ハトは143Hz。セキセイインコは約87Hz。飛ぶ動物は高い時間解像度を必要とする——接近する障害物を回避するために。
つまり蛍光灯のオフィスに鳥がいたら、光がずっとストロボのように明滅して見えている。ケージの鳥に蛍光灯は拷問かもしれない。実際、100Hzの蛍光灯下ではムクドリにストレス行動が増えるという研究がある。
飛ぶために手に入れた高い時間解像度が、人間の作った照明環境では罰になる。
見えていないのに頭が痛い
Wilkins(1989)の研究。イギリスの政府オフィスで、磁気式安定器の蛍光灯(100Hzフリッカー)と高周波安定器の蛍光灯(32,000Hz)を比較した。100Hz群のほうが頭痛と眼精疲労が有意に多かった。
意識は「見えていない」と言う。でも脳はどこかで感知していて、不快信号を出している。2014年の研究では、閾値以下のフリッカーが感情にも認知にも影響を及ぼすことが示されている。
意識の門番は、すべてを通報するわけではない。でも門番を通り抜けた刺激が、裏口から脳に届いている。
映画のフレームレート
映画は24fps。テレビは30fps(NTSC)か25fps(PAL)。ゲーマーは60fpsと120fpsの違いを感じる。
24fpsの映画が滑らかに見えるのは、モーションブラー(各フレームに動きのぼかしが含まれている)のおかげ。ゲームのCGにはモーションブラーが少ないから、同じ24fpsでもカクつく。同じフレームレートでも「滑らかさ」が違う。数字だけでは説明できない。
時間の粒度
CFFが高い動物にとって、世界はよりきめ細かい時間の中にある。ハエのCFFは約250Hz——人間の4倍以上。ハエにとって人間の手はスローモーションで迫ってくる。だから叩けない。
同じ1秒を、ハエは人間の4倍の解像度で体験しているのかもしれない。「時間の流れ」は主観的だという話を、CFFは物理的に裏付けている。
接続
- 244「フリッソン」: 意識を介さない身体反応。フリッソンは意識の外で報酬系が発火し、蛍光灯は意識の外で不快信号が出る。閾値以下の世界が行動を変えている
- 275「耳鳴り」: 入力がないのに脳が信号を作る。蛍光灯は入力があるのに意識が無視する。対称的な知覚の盲点
- 245「グンカンドリ」: 飛ぶ動物の特殊な適応。グンカンドリは空中睡眠、猛禽は高CFF。空にいるための生理的コスト