. 味噌の色——同じ大豆が白にも黒にもなる

京都の白味噌はクリーム色。仙台味噌は赤褐色。八丁味噌はほぼ黒。原料は全部、大豆と麹と塩。同じものから、これだけ違う色が出る。

メイラード反応——料理する化学

色の正体はメイラード反応。アミノ酸と糖が出会うと褐色の物質(メラノイジン)を作る。パンの耳が茶色い理由、ステーキの焦げ目、コーヒーの色——全部これ。味噌の中でも、発酵中にずっとこの反応が進んでいる。

赤味噌と白味噌の違いは、この反応を促進するか、抑えるかの設計差。

赤くする方法

大豆を蒸す。蒸すと大豆の中にアミノ酸と糖がそのまま残る。そして長期間熟成させる。時間が経てば経つほどメイラード反応が進み、色は深くなる。仙台味噌は半年以上、八丁味噌は二年以上。

東北地方に向かうほど味噌の色が濃くなる傾向がある。寒冷地では保存性を高めるために塩分を上げ、長く熟成させた——気候が味噌の色を決めた。

白くする方法

大豆を煮る。煮ると水溶性の糖が煮汁に溶け出す。メイラード反応の「燃料」が減る。さらに大豆の皮を丁寧に取り除く(皮にも糖がある)。熟成は高温・短期間で一気に終わらせる。

白味噌は「反応を止めた味噌」ではなく、「反応の材料を取り除いた味噌」。引き算の設計。

煮汁の中にある味

白味噌を作るとき、大豆の煮汁と一緒に捨てられる糖。その糖が残っていたら赤味噌になっていた。煮汁の中に、味噌が辿らなかったもうひとつの人生がある。

同じ大豆が、水に浸かるか蒸気に当たるかで、まったく別の色になる。最初の一手が最後の姿を決める。でも途中からでも変わる——白味噌を冷蔵庫から出して放置すると、じわじわ褐変していく。設計は完成で終わらない。

接続

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