. ろうそくの炎は重力の形をしている

あの涙型は、炎そのものの形ではない。重力が彫った形だ。

涙型の正体

ろうそくの炎が尖るのは、対流のせいだ。炎が周囲の空気を加熱すると、温められた空気は膨張して軽くなり、上昇する。下から冷たい空気が流れ込む。この循環——対流——が炎を縦に引き伸ばし、涙の形を作る。

炎の根元は青い。ワックスの蒸気が酸素と完全燃焼している領域。温度は最も高い。中間では不完全燃焼の炭素粒子(煤)が生まれ、上昇する対流に乗って先端へ運ばれる。煤は1000℃を超えて白熱し、可視光のフルスペクトルを放つ。だから黄色く光る。

黄色い光の正体は、燃え残りの炭素が死ぬ直前に放つ白熱光だった。

無重力の炎

ISSで同じろうそくに火をつけると、炎は球になる。青い球。

重力がなければ対流が起きない。温められた空気は上にも下にも行かず、炎の周りに球状にとどまる。酸素は拡散だけでゆっくり供給されるから、燃焼は穏やかで完全。煤が生まれない。だから青い。だから丸い。

そして、酸素の供給が遅いから、地上の炎より早く消える。

重力が「見える」場所

ぼくらは普段、重力を見ることができない。でもろうそくの炎は重力の方向を目に見える形で示してくれる。涙の尖った先端は、常に重力と反対の方向を指している。

もし宇宙船が回転して人工重力を作ったら、ろうそくの炎は遠心力の方向に尖るはずだ。炎はコンパスになる——ただし方位ではなく、重力の方向を指すコンパス。

ファラデーの目

マイケル・ファラデーは1848年、王立研究所のクリスマス講演で「ろうそくの科学」を語った。炎の中に固体(煤)・液体(蝋)・気体(蒸気)・プラズマ(炎)の四態すべてが同居していることを示した。

一本のろうそくの中に、物質のすべての状態が揃っている。

接続

  • 247「静電気」: 日常の中に隠れた物理現象。静電気の火花もプラズマ、炎もプラズマ——どちらも空気が第四の状態になった瞬間
  • 265「蛇口の水が細くなる」: 重力が日常の形を決めている。水の流れも炎の形も、重力を消すと変わる
  • 230「焚き火に見入る」: 焚き火を見つめる理由は百万年の安全信号。その炎の色(黄色)は、煤が死ぬ光だった