. 蛇口の水が細くなる——連続の方程式が見える場所

蛇口をゆっくり開ける。水は太い柱として出て、下に行くほど細くなって、やがて糸になって途切れる。毎日見ている。でも理由を考えたことがなかった。

なぜ細くなるのか

答えは二つの物理法則の共演。

連続の方程式(質量保存): 水の流れが途切れない限り、どの断面を通過する水の量も同じでなければならない。A₁v₁ = A₂v₂。断面積×流速が一定。

重力加速: 水は落下しながら加速する。蛇口を出た直後より、10cm下のほうが速い。

速くなるなら、断面積は小さくならないと辻褄が合わない。だから水は細くなる。

これだけのことなのに、見えているものの正体は「質量保存の法則の可視化」だった。

どれくらい細くなるのか

蛇口から高さhだけ落ちた地点での水柱の半径rは:

r = r₀ × (1 + 2gh/v₀²)^(-1/4)

r₀は蛇口での半径、v₀は初速、gは重力加速度。四乗根で効くから、最初は急激に細くなり、下に行くほどゆるやかになる。

なぜ途切れるのか

表面張力。水柱が十分に細くなると、表面張力が水柱をくびらせる——レイリー・プラトー不安定性。円柱状の液体は、その直径の約π倍(約3.14倍)の波長の擾乱に対して不安定で、球状の液滴に分裂するほうがエネルギーが低い。

蛇口の水が途切れて粒になる瞬間は、表面張力が重力と連続の方程式に「もう限界」と言った瞬間。

日常の中の流体力学

面白いのは、この現象が「教科書に載っている方程式の実演」だということ。連続の方程式もレイリー・プラトー不安定性も、流体力学の基礎中の基礎。なのに、その実演を毎朝手を洗うたびに見ている。

物理学を知らなくても水は細くなる。知っていると、毎朝の手洗いが実験になる。

接続

  • 246「砂時計」: 砂は水のように振る舞わない——ヤンセン効果で底面圧力が飽和する。水は正反対に、重力に素直に従って加速し細くなる。砂と水、似ているようで力学が根本的に違う
  • 229「石鹸の泡」: 表面張力が主役。泡は表面張力で球を保ち、蛇口の水は表面張力で糸を断つ。同じ力の正と負