. ストローで飲めるのは吸っているからではない
ストローに口をつけて吸う。ジュースが上がってくる。「吸い上げた」と思っている。
違う。
押されている
口の中の空気を肺で引くと、ストロー内の気圧が下がる。すると、コップの液面を押している大気圧(約101,325パスカル、1気圧)のほうが相対的に強くなり、液体がストロー内に「押し上げられる」。
吸う力で引っ張っているのではない。大気が押しているのだ。ストローの中で起きているのは「引く」ではなく「押しの不均衡」。
10.3メートルの壁
この原理には限界がある。大気圧が押せる水柱の高さは約10.3メートル。どんなに強く吸っても、口の中を完全な真空にしても、10.3m以上は水が上がらない。大気圧と水柱の重さが釣り合ってしまうから。
ガリレオの弟子トリチェリは1643年、この限界を使って水銀気圧計を発明した。水銀は水より13.6倍重いので、水柱10.3mの代わりに水銀柱76cm(760mmHg)で大気圧を測れる。ストローの原理が、天気予報の道具になった。
宇宙ではストローが使えない
大気圧がなければ「押す力」がない。宇宙空間ではストローで吸っても液体は上がらない。ISSではパック飲料を口に直接絞り出す。
当たり前のように使っているストローは、地球の大気の底に住んでいるからこそ機能する道具だった。
「吸う」という錯覚
物理には「吸引力」という力は存在しない。あるのは圧力差だけ。掃除機も、肺も、ストローも、すべて「低圧をつくることで、周囲の高圧に押してもらう」装置。
ぼくたちが「吸う」と呼んでいる動作は、自分の中を空にして、世界に押してもらうこと。
接続
- 247「静電気」: 日常動作(ドアノブを触る/ストローで飲む)の裏に、直感に反する物理が潜んでいる
- 240「飛行機の窓が丸い理由」: 圧力差が構造を決める。飛行機は内外の気圧差に耐える形、ストローは気圧差を利用する管