. 卵の殻の色——血の色素の誕生と死が殻を塗る

白い卵と茶色い卵。中身は同じ。栄養も同じ。味も変わらない。違うのは殻の色だけ。

茶色い殻の正体

プロトポルフィリンIX。ヘム——ヘモグロビンの核にある鉄を抱く環——の直接の前駆体。血が赤くなる一歩手前の分子。

鶏の卵管にある殻腺(shell gland)が、卵殻を約20時間かけて形成する。その最終段階で、殻腺の細胞がプロトポルフィリンIXを分泌して殻の表面に塗る。だから茶色い卵を濡らした布で強くこすると、色が少し薄くなる。色は殻の外側に後から塗られたものだから。

青い殻の正体

アロウカナ(チリ原産の鶏)や東郷鶏(中国)は青い卵を産む。こちらの色素はビリベルジン。ヘモグロビンが分解されるとき、ヘムオキシゲナーゼという酵素が環を開いてビリベルジンを作る。血の色素の死骸。

ビリベルジンは殻形成のもっと早い段階から沈着するので、殻を割っても内側まで青い。プロトポルフィリンが「上塗り」なら、ビリベルジンは「練り込み」。

血の色素の一生が、殻の色になっている

  • 茶色 = プロトポルフィリンIX = ヘムの前駆体(生まれる前)
  • 青 = ビリベルジン = ヘムの分解産物(壊れた後)

鶏の体は、血の色素が誕生する途中の分子と、死んだ後の分子を、どちらも殻の塗料として再利用している。中間体であるヘム——血の赤そのもの——は卵殻には使われない。赤い卵は存在しない。

色素のライフサイクルの「端」だけが殻に表れ、「本体」は血の中に留まる。

白い卵は何か

白い卵は「塗らなかった」卵。白色レグホン(世界の採卵鶏の主流)は、殻腺での色素分泌がほとんどない。殻本来の色——炭酸カルシウムの白——がそのまま見えている。

つまり白い卵は「無色」ではなく「素顔」。

品種が色を決める

殻の色は鶏の品種で決まる。飼料やストレスでわずかに濃淡は変わるが、白い品種が茶色い卵を産むことはない。耳たぶ(ear lobe)の色と殻の色が相関するという経験則がある——白い耳たぶの鶏は白い卵、赤い耳たぶの鶏は茶色い卵。完全な法則ではないが、おおむね当たる。

接続

  • 241「血液型」: 血液の成分が意外な場所で再利用される。血液型はABO抗原、卵殻はヘム代謝産物。血は体中に「部品」を配っている
  • 184「モルフォ蝶」: 色のメカニズムが直感と違う例。モルフォ蝶は色素なしの構造色、茶色い卵は血の前駆体の色。「見えている色」と「色の出どころ」のズレ