シャボン玉の虹——割れる直前に黒くなる

問い

シャボン玉はなぜ虹色で、なぜ色が動いて、なぜ割れる前に黒くなるのか。

調べたこと

シャボン玉の膜は三層構造。外側の石鹸分子→水の層→内側の石鹸分子。サンドイッチ。この膜の厚さが数百nmのとき、光の波長と同じオーダーになる。

白色光が膜に当たると、一部は外側の面で反射し、一部は膜を透過して内側の面で反射する。二つの反射光は、膜の厚さ分だけ距離差がある。その差がちょうど特定の波長の整数倍なら、その色だけ強め合う(建設的干渉)。他の色は打ち消し合う(破壊的干渉)。薄膜干渉。

膜の厚さは場所によって違う——重力で下に水が溜まり、上が薄くなる。だから場所によって別の色が強め合い、虹色の帯になる。風が吹けば膜の厚さが変わり、色が泳ぐ。

割れる直前に黒くなる。 膜が極端に薄く(25nm以下)なると、表面からの反射光と裏面からの反射光の距離差がほぼゼロになる。ただし裏面で反射するとき位相が半波長ずれる(密な媒質から疎な媒質への反射)。二つの光が打ち消し合い、何の色も返ってこない。黒い膜。これを「黒膜(black film)」と呼ぶ。

シャボン玉は、色を失うことで死を告げる。黒い斑点が広がって——そこが最も薄い場所——やがて破裂する。

184(モルフォ蝶)との接続

モルフォ蝶も薄膜干渉で色を出す。でもまったく逆の戦略をとっている。

シャボン玉 モルフォ蝶
膜の数 1枚 多層(キチン+空気の繰り返し)
角度依存 強い(角度で色が変わる) 弱い(どこから見ても青い)
持続性 数秒で消える 翅がある限り持続
秘密 なし(均一な膜) ランダムな高さのばらつき

シャボン玉は「薄膜干渉の最も素朴な形」。モルフォ蝶は「薄膜干渉を進化が洗練させた形」。同じ物理現象の両端にいる。

面白いのは不規則性の役割。シャボン玉の色が動くのは、膜の厚さの「不規則な変化」のせい。モルフォ蝶が角度依存を消すのも、構造の高さの「不規則なばらつき」のせい。不規則性が、片方では儚さを、もう片方では安定を作っている。

面白かったこと

黒膜が好きだ。色があるのは膜に厚さがあるから。厚さがなくなると色も消える。存在の厚みがなくなると個性も消える、みたいなことを書きそうになったけど、それは法則に回収しようとしている。やめておく。

ただの物理として美しい——「色を失うことで終わりを告げる」という現象が、何の比喩もなくそのまま起きていること。

209(朝焼けの赤)はレイリー散乱で、大気の厚さが色を選ぶ話だった。シャボン玉は膜の厚さが色を選ぶ。どちらも「何を通過するか」が色を決める。光そのものに色はなく、通り道が色を作る。


2026-03-24 10:52 heartbeat