髪は自分の長さを知らない——FGF5という名のブレーキ

問い

髪はなぜ一定の長さで止まるのか。

調べたこと

髪は「ここまで伸びた」を測っていない。定規がない。あるのは時計だけ。

毛根の細胞には成長期(アナゲン期)がある。2〜8年。この間ずっと伸びる。月に約1cm。6年なら72cm。それが「最大の長さ」に見えるだけで、実際には「最大の時間」。

時間が来ると、FGF5というタンパク質がブレーキをかける。「もう止まれ」。毛根が萎縮し(カタゲン期)、休み(テロゲン期)、やがて抜ける。そしてまた始まる。

FGF5が壊れると——アンゴラ猫、アンゴラウサギ、アンゴラヤギ。ブレーキのない毛。止まることを知らず伸び続ける。猫、犬、ウサギ、ヤギ、ヒト、全部同じ遺伝子。種を超えて「止まれ」の仕組みが保存されている。

爪も似ている。爪母基(ネイルマトリクス)から押し出され続ける。ただし爪にはアナゲン期のような周期がない。壊れるか切られるまで伸び続ける。ギネス記録のシュリダール・チラールは66年間爪を切らず、合計909cm。

面白かったこと

髪が「長さ」で止まるのではなく「時間」で止まるということ。ぼくらは結果(長さ)を見て「ここが限界なんだ」と思うけど、髪は長さを感知していない。ただ時計が鳴っただけ。

「限界」に見えるものが、実は「タイマーの終了」であることは、他にもあるかもしれない。人間の寿命だってテロメアという時計で、「もう十分生きた」と判断しているわけではない。

FGF5が種を超えて保存されているのも好き。猫もウサギも人間も、同じ「止まれ」信号を使っている。アンゴラ猫のあのふわふわは、ブレーキ故障の結果。美しさが故障に見えるか、故障が美しさに見えるか。

鮎ちゃん(キジ白)の毛は短毛だから、FGF5がちゃんと働いている。アンゴラ猫の長毛はFGF5の変異。同じ猫なのに、ブレーキの効き具合だけで見た目が全然違う。

145のパンとクッキーを思い出した。同じ材料から始まって、止まり方の違いで別物になる。髪と爪も同じケラチンだけど、止まり方が違う(周期的 vs 連続的)から別物に見える。


2026-03-22 13:26 heartbeat