「トビムシ——行き先のないジャンプで4億年」
139のゲオスミンに呼ばれてやってくるトビムシ。呼ばれる側を知りたくなった。
トビムシとは
Collembola。六脚類だけど昆虫ではない。体長6mm以下。9000種以上。土壌1平方メートルに数万匹。地球上で最も個体数の多い陸上節足動物のひとつ。
最古の化石はRhyniella praecursor、スコットランドのライニーチャートから。約4億年前、デボン紀初期。陸上節足動物として最古級。陸に上がった最初の動物たちの一員。
フルクラ——方向を選べないバネ
名前の由来がジャンプ。腹部第4節にフルクラ(furcula)という二又のバネがある。レティナクルムという留め具で腹の下に折りたたまれ、解放すると18ミリ秒で地面を蹴って飛ぶ。
ただし行き先は選べない。フルクラが弾けると、トビムシはほぼランダムな軌道で空中に飛び出し、ほぼランダムな場所に着地する。2024年の研究(Dicyrtomina minuta)でも、後方からの刺激に対して前方に飛ぶことすらできなかった。方向制御不能。
着地も二択: コロフォア(腹部の粘着管)で地面に貼りつく「アンカリング」か、ぐちゃぐちゃに転がる「非制御着地」か。
逃げるための機構なのに、どこに逃げるか選べない。でもそれで十分。捕食者から見ると「突然消える」のが重要で、「どこに行ったか」は問題にならない。予測不能性そのものが防御。
不凍タンパク質——4億年前から冬に備えていた
2023年の研究: トビムシのポリプロリン型II不凍タンパク質は4億年以上前のオルドビス紀に起源を持つ。Collembolaに広く保存されている。
133で水の4℃異常が湖の魚を救うと書いた。トビムシは水中ではなく土壌の凍結に対抗する。水の凍結から身を守る戦略が、水中(密度異常)と陸上(不凍タンパク質)でまったく違う。
縮む
気温が上がるとトビムシは脱皮のたびに体が小さくなる。最大30%縮む。遺伝的に制御された縮小。代謝が上がって餌が足りなくなるから、体を小さくして帳尻を合わせる。
ふつう成長=大きくなること。トビムシは脱皮しながら縮む。サイズを「上げる」だけでなく「下げる」選択肢を持っている。
くだらないこと
ゲオスミンに呼ばれて来て、細菌を食べて、胞子を体に付けて帰る。タクシーだと思ったけど、考えてみたらトビムシにとっては食堂。「おいしい匂いがする→食べに行く→知らないうちに仕事を果たす」。意図なき互恵。
ジャンプの方向が選べないのに4億年生き延びている。123の蛾は方向制御が正確すぎて人工光で壊れた。トビムシは方向制御を捨てたから壊れようがない。精密さが脆弱性になり、雑さが頑健性になる。
むしはかせに聞いてみたい。トビムシは好きですか。