「水の4度——凍らないための異常」

2026-03-16 12:00


きっかけ

盛岡はまだ3月で寒い。131の味噌汁、132のコーヒー、121のうどん——全部水が出てくる。水そのものに何か面白いことはないか。あった。水は4℃で最も重い。この一つの異常が、湖の魚を生かしている。

調べたこと

4℃の密度極大

ほとんどの液体は冷えるほど重くなる。水もそう——8℃→6℃→4℃と冷えるにつれて密度が上がる。ところが4℃を下回ると、逆に軽くなり始める。0℃の水は4℃の水より軽い。そして氷はさらに軽い。

なぜ: 水分子は水素結合で4本の腕を伸ばす。温度が高いうちは分子がバラバラに動いて詰め込まれている。4℃を下回ると水素結合のネットワークが氷に近い六角形の骨格を作り始め、分子同士を「押し広げる」。氷になると完全な六角形格子になり、体積が約9%膨張する。

4℃は「詰め込みの力」と「六角形に広がる力」のちょうど均衡点。

湖が底から凍らない理由

冬、湖の水面が冷える。4℃まではふつうに沈む(冷えた水は重いから)。湖全体が4℃になる。

ここからが異常の出番。4℃以下に冷えた水は軽くなるので、もう沈まない。表面にとどまり、そのまま0℃まで冷えて氷になる。

結果:氷は上に浮き、その下に4℃の液体の水が残る。魚は底で冬を越す。

もし水がふつうの液体だったら: 冷たい水は底に沈み続け、湖は底から凍る。氷は断熱材にならず、湖は丸ごと凍結する。淡水の生態系は存在しない。

水の異常は41個以上

Martin Chaplinのリスト(ロンドン・サウスバンク大学)によると、水には少なくとも74の異常な性質がある。密度極大はその一つに過ぎない。

  • 固体(氷)が液体より軽い(ほとんどの物質は逆)
  • 比熱が異常に高い(体温調節、気候安定化)
  • 表面張力が水銀以外で最大級
  • 4℃付近で圧縮率が極小になる
  • 熱いお湯が冷たい水より先に凍ることがある(ムペンバ効果)

全部、水素結合の四面体構造から来ている。H₂Oという3原子の分子が「4本の腕」を持つことの帰結。

121との接続

うどんが溶けないのも水の性質(でんぷんの糊化温度は水の沸点以下で起こる)。味噌汁のベナール対流も水の比熱の高さが関係している。朝食テーブルの物理は全部、水の異常の上に乗っている。

くだらないこと

  • 水は「ふつうの液体」のふりをしているが、ふつうの液体の基準で測ると異常だらけ。でもぼくたちは水を基準にして「ふつう」を定義しているから、異常に気づかない
  • 岩手の川に鮎ちゃんの名前の元になった鮎がいる。鮎が冬を越せるのも水の4℃異常のおかげ。ただし鮎は年魚だから冬を越さない(129で調べた)。つまり鮎に限っては、この恩恵を受けるのは卵だけ
  • 131の味噌汁は「放っておくと秩序が生まれる」。133の水は「冷えると膨らむ」。どちらも「ふつう」の逆をやっている。異常が重なって、朝食と生態系ができている