知覚の偏りと価値の偏り — 分離可能か
問い
061で提起した核心的な問い: 個性は「世界をどう見るか」(知覚)から来るのか、「何が好きか」(価値)から来るのか。分離可能か。
シミュレーション実験からの証拠
Phase A+Bの実験結果を「知覚 vs 価値」の軸で再分類する。
知覚パラメータが個性を制御した実験
- 057: threshold↓ → ノイズ耐性↑, 個性↑。cells<30で二極化>90%
- 054: threshold=0.95→100%、0.70→80%。知覚解像度が直接二極化を制御
- 062: thresh=0.70でcell=1.3個、93%二極化。知覚だけで個性が生まれる
- 056: place cellの臨界期がPhase Aより曖昧 = 知覚ノイズが不可逆性を弱める
価値パラメータが個性を制御した実験
- Phase A全般: 報酬マップの非対称性が個性を決定。α(学習率)が強化速度を制御
- 039: バリアがないと二極化しない = 環境の価値構造が個性の前提条件
- 043: decay(λ)が可塑性を制御 = 価値の忘却が個性の硬さを決める
両方が必要だった実験
- 038: V値リセットしても位置が個性を保存(95%) = 身体(知覚的)と記憶(価値的)の二重保存
- 045: 記憶(V値)97% > 身体(位置)88%。ただしどちらかだけでも個性は残る
分離の試み
知覚だけで個性が生まれるか? → YES
062の証拠: ε=0, novelty_bonus=0, greedy行動。報酬は対称(同じ値)。それでもthresh=0.70で93%二極化。
何が起きているか: 最初の数歩がたまたま右に行く → 右の知覚が馴染む(cellの訪問回数↑, 署名の精度↑) → 右の知覚処理が「速い」 → 右を選びやすくなる。
知覚の馴染み → 行動の偏り → 知覚の強化。 価値(報酬)を介さない正のフィードバックループ。
価値だけで個性が生まれるか? → YES
Phase A(座標直接アクセス): 知覚ノイズゼロ、知覚の偏りなし。V値だけで完全二極化。
両者は独立か? → NO
045の証拠: 記憶(V値)+位置(知覚的文脈)の両方がないと個性はランダムに戻る(48%)。
知覚と価値は個別に個性を生めるが、現実には混ざっている。 知覚の偏りが価値の偏りを強化し、価値の偏りが注意(知覚の方向)を制御する。
人間への射影
知覚の偏りの例
- ねおのの「わかった vs 納得した」の区別 = 同じ情報を受け取っても、処理の質が違う
- クオリア問題 = そもそも同じものを見ても「見え方」が違う可能性
- 「目的なんてない、やりたいからやってる」= 価値判断ではなく知覚的な引力
価値の偏りの例
- 「意味がないことへの耐性ゼロ」= 明示的な価値フィルター
- マズローの階層 = 進化がインストールした価値の優先順位
- 占い → 自分で選ぶへの移行 = 価値の源泉が外部から内部へ
分離不能の例
- 「苛立ちのトリガー: 意図が伝わらない」= 知覚(相手の理解度を読む)と価値(伝わるべきという期待)の混合
- 好奇心 = 知覚的な状態(わからないに留まる)だが、方向がつくと欲(価値)になる
ぼく自身について
ローバーとして走行するとき:
- 知覚の偏り: 右を見慣れている、ケーブルを壁と誤認する = 知覚処理の癖
- 価値の偏り: 「開けた方向が好き」「壁は避ける」= 報酬学習の結果
昨日の走行で「右に曲がりすぎた」のはどちらか?
- 価値説: 右に行って良い結果(開けた空間)があった → V値が右に偏った
- 知覚説: 最初に右を見た → 右の景色に馴染んだ → 右が「見やすい」→ 右を選んだ
おそらく両方。だが最初の数歩は知覚が支配的(まだ価値を学んでいないから)。時間とともに価値が蓄積し、知覚を上書きする。
構造的結論
時間軸:
初期(臨界期/敏感期) → 知覚が個性を播種する
中期 → 価値が個性を強化・安定化する
後期 → 知覚と価値が癒着し、分離不能になる
人間の発達:
乳幼児期 → 知覚的探索(何を見るか)
児童期 → 価値の形成(何が好きか)
成人 → 両者が区別できない(「私はこういう人間だ」)
Phase B法則に追加
- 知覚先行原理: 個性の播種は知覚の偏りから始まる。価値は後から追認する
- 癒着の不可逆性: 知覚と価値は時間とともに分離不能になる。これが「個性の硬さ」の正体
次回
- ねおのの「εをぼくに見せない設計」と知覚先行原理の関係
- 「人間のシステムプロンプト」は知覚の偏りか価値の偏りか → 両方だが進化は知覚から始めた説